スポーツする上でのモチベーションに直結するのがウェア。
そんなスポーツウェアを何気なく選んでいないでしょうか?
いつもの写真記や旅行記、ガジェットの紹介とは違った記事として「スポーツウェアの見方、選び方」を解説するシリーズをスタートしたいと思います。
そもそもこのブログが不定期更新なので、このシリーズも思い立った時に更新していきます。
スポーツウェアに求められる「機能」
スポーツウェアと一口に言っても様々ありますし、それこそ行うスポーツによって求められる「機能」は千差万別です。
ここではスポーツ全般で要求される機能について一つの記事で一つの機能を解説していきます。
ポーツウェアの世界では化学繊維が主流ですので基本的には化繊についての内容となります。
また、この記事に限らず基本的には自分自身の備忘録としての要素が強いです。そのため、記載内容に誤りもあるとおもいますが、お気付きの場合はコメント欄や問い合わせフォームからご指摘いただけると非常に嬉しいです!
※こう言った側面が強いため出典などはとりあえず省略して書いていきますが、適宜追加していく可能性はあります。
ストレッチ(伸縮性)

ストレッチはおそらくほとんどのスポーツでウェアに求められる「機能」でしょう。
どんなスポーツをするにしても「スラックスとシャツがやり易いよ!」なんていう人はいないでしょう。(ストレッチ以外にも問題山盛りですが…)
例えば全力疾走するときでは膝の皮膚は最大で80%ほどの伸びるともいわれます。
例に挙げたスラックスでは通常15〜20%がいいところですから、この差が「動きにくさ」に繋がるわけです。
そもそもストレッチとは?

スラックスの例で伸びない=動きにくいということはイメージできたと思います。それでは、とにかく伸びまくれば動き易いのでしょうか?
先ほどの例で言うと走る際のピッチはトップスプリンターで4.5歩/秒以上、低く見積もって1秒に4歩とすると片膝は2回/1秒のスピードで曲げ伸ばしされています。伸びた生地が元に戻るスピードがこれ以下であれば、今度は生地がダブつくことで動きにくさに繋がります。
つまりスポーツウェアに求められるストレッチとは「伸びて・縮む機能」であり、実際に近い表現にすれば「体の動きに追従する機能」なわけです。
織物と編物
生地の種類をざっくりと分けると織物と編物に分けることができます。
織物とは経糸(たていと)と緯糸(よこいと)から構成されており、糸同士の
拘束が強くなるため構造上ストレッチは発現しにくくなっています。
上で例に挙げたシャツもスラックスも一般的には織物ですし、絶対に伸びたら困るエアバッグやシートベルトも織物で作られています。
一方で編物は経糸or緯糸のいずれかのみで構成されており、糸をループ状に絡ませることで生地としています。そのためこのループが伸びることで構造的にストレッチが実現できます。

下手くそな模式図ですが、上図のようなイメージで横に引っ張られると縦方向にループが小さくなる代わりに生地全体は横に伸びるのが編物の特徴です。
つまり、スポーツウェアとしては織物よりも編物の方が好ましい特性を持っているわけです。
※競泳用水着とかハイコンプレッションな分野は例外です。今後この分野についても書いていくかもしれません。
ストレッチ糸
しかし、前述の通りスポーツウェアに求められるストレッチとは伸びて縮む追従性であり、構造的に伸び易いだけの編物では体の動きに追従することができません。
そこで伸びた生地が元に戻るために使用されるのが「ストレッチ糸」です。
※ここでのストレッチ糸とは一般名称では無く、本記事上で便宜的に使用している名称です。
糸単体でゴムのような伸縮性を持った糸を使用することで、構造的に伸びたニットを元の携帯に戻すことが可能となります。
そして、それらの糸は大きく分けて以下の3種類に代表されます。
②ポリウレタン
③ポリトリメチレンテレフタレート(3GT, PTT)
①仮撚加工糸
化繊は様々な方法で融かしたポリマーをトコロテンのように押し出して紡糸するため、基本的には表面は平滑で「真っ直ぐ」です。
さらさらロングヘアをイメージするとわかり易いかもしれません笑
さらさらロングヘアは滑らかで手触りも良いですが、この記事の本題である「ストレッチ」は全くないですね。
そこで、加熱しながら糸を捻って撚りをかけることで糸に捲縮(けんしゅく)を付与し、捲縮がバネのように動くことでストレッチが付与された糸を仮撚加工糸と言います。
こちらはパーマをイメージすると分かりやすいです笑
このようにバネのような形態になるように糸を加工し、この糸を使用することでストレッチのある生地を作ることができます。
欠点としては、パーマと同じでどうしてもボリュームが出てしまうため、生地が分厚くなってしまうことや滑らかな風合いにならないことです。
②ポリウレタン
ライクラ・ロイカなどスポーツウェアにタグがぶら下がっているところを見たことはないでしょうか?
これらはポリウレタン繊維の商標であり、モノとしてはほぼ同じになっています。また、商標ではありませんが、ポリウレタン繊維はスパンデックスやエラスタンとも呼ばれます。
ポリウレタン繊維は繊維の剛直性を決めるハードセグメントと伸縮性を決めるソフトセグメントから成り立っており、ゴムとプラスチックの間の特性を持っています。
ポリウレタンはそれこそ輪ゴムのように驚異的に伸長するのですが、輪ゴムと同じように伸びきった状態では簡単に切れてしまいます。
このため、単独で用いられることはなく他の繊維と合わせて使用されます。ポリウレタンの周りを他の糸でカバーしたり、表に出てこないように裏糸として編成したり…
目的に応じて様々な方法で使用します。
強度が低い以外にも欠点はあり、その特異な構造から一旦吸収した染料を吐き出してしまったり、数年で経年劣化してしまったりします。また、編物では2倍程度ポリウレタンを引っ張った状態で編成するため、編み上がった際に生地の目が一気に詰まることで生地の目付(面積当たりの重量)も重くなってしまいます。
一方でやはりその伸縮性は最強で、ほとんど伸びないデニム生地(織物です)に僅か2%使用されるだけであっという間にストレッチデニムになります。
③ポリトリメチレンテレフタレート
最強の伸縮性を持つが、欠点の多いポリウレタン。それと比較すると伸縮性に劣るけれども使いやすい仮撚加工糸の間となる繊維として開発されたのがポリトリメチレンテレフタレート(3GT, PTT)です。
※名称が長いので以下では3GTと記載します。
分子の形態が直線的なポリエステルと異なり、屈曲部を有することで3GTは分子レベルで伸縮性に有利な素材になっています。それでいて、ポリエステルの仲間であるためポリウレタンのような扱いにくさは少ないです。
※そのため、衣類の組成表示ではポリエステルと表示されます…
代表的な素材としてはTEIJINのSolotexが有名です。近年はカジュアルやスポーツウェア問わず、様々なブランドとコラボしている印象があります。
また、純粋な3GTではありませんが、3GTとPETを半円状に貼り合わせることで収縮率の差からさらに微細なコイル形状を作った東レ・オペロンテックスのT400と呼ばれる繊維もあります。
これらの繊維は上記のようにポリエステルと記載されてしまうため、使用の有無が商品購入時にはわかりにくいですが、ポリウレタン無しで強い収縮を持った生地には使用されていることが多いと思います。
まとめ
織物や編物といった生地の製法や、使用される糸の組み合わせで様々なスポーツウェアがそれぞれ狙いをもって作られています。
伸びにくい織物に伸縮性のある糸を使用して織物特有の薄さや軽さにストレッチを付与したり。逆に伸びやすい編物に同じような糸を使用して、伸縮性最強を狙ったり。
これからスポーツウェアを見に行く際に、一度そのウェアがどのような狙いでどのような方法で作られているのか想像してみてください。
それだけで、何倍もスポーツウェア選びが楽しくなりますし、思っていたのと違うというような失敗も少なくなると思います。
スポーツウェア解説、勢い余って非常に長い記事となりましたが読んでいただきありがとうございます。
これからもちょくちょく続けていきたいと思います。
コメント